騎士団長殺し

 村上春樹の最新作
いつものように、普通(ぽい)主人公が、普通でない出来事に対峙し、冷静に(少なくともパニックは起こしていないように思える)応答していく。
常に感じるのですが、これはなかなかハードだし、ありえないだろう。
と、思えるようなシュチュエーションでも、物語は、どこか普通ぽさ、常識の範囲内のように感じさせてくれます。

魅力的な登場人物が多く登場しますが、キーとなる存在、『免色さん』は、その中でも、とてもとても、不思議で魅力のある人物でした。

自と他を、はっきりと分け切れる強さ。
自身の可能性を常に最高のレベルに引き上げる貪欲さ。
習慣を重んじ、焦りを克服する術。
それに伴う、冷たさが満たす反面、その秀でた能力で、人、物事を見極め、信頼に足れば、どんな事態にも、応答していく。
そのスキの無い人生に、突如として訪れた、抗えない可能性に、翻弄される様は、ホッとするような人間臭さを感じ、身近に感じることができました。(グレートギャツビーのように)

こちら側とあちら側。意識と潜在意識。生と死。
その境界線は、その跨ぐ瞬間を、より自然に描かれていて、それは、ファンタジーを超え、もしかすると、誰もが当たり前に、経験するかのようでした。

必死になって生きてる時、遠くにあるはずの楽園は霞んで見え、近く存在している景色は歪んでいるように見えます。
そのような時でも宇宙からこちらを眺めると、それは誰の目にも美しく映ることでしょう。
経験は、人を強くし、優しさを持つことへのチャンスでもあります。


不思議な物事は、幼い時代には、リアルな感覚として生きていますが、大人になるにつれ、それは、無意味で、役に立たないことだと知り、ほとんどの人は、心の奥底というより、あちら側へ手放して忘れたように生きます。
ですが、時に、想像を超える、大きな出来事を経験することで、あちら側の世界を、子供だった頃よりも、リアルに(できればシリアスに)感じ、自分の内面の奥深くへと、そしてあちら側へと旅を始めることができるのかもしれません。

そして、最も大切なことは、そこから必ず帰ってくること。
それを忘れてはいけないのだと感じました。

 

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

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